第31回(2010.09.21)   口コミしたくなる動機

 マーケティングにおいて“口コミ”の威力は大きくなっています。

 インターネット上でも、利用者からの口コミや感想は重要な情報となり、消費者の行動に大きく影響を与えており、また、リアルな世界での発信力のある主婦の組織化により、意図的に口コミによる情報伝達を促すようなことも行なわれています。

 このように、如何に利用するかという検討が盛んに行なわれている“口コミ”という情報伝達手段ですが、これは口コミをしたい人(情報を無償で提供したいと思う人)が存在するから成り立つものです。では、何故、人は口コミによる情報伝達をしたいと思うのでしょうか。今回は、口コミをしたくなる動機についてDeep Thinkingしてみたいと思います。

 現実に、口コミによる情報伝達が好きな人がいます。どちらかと言えば、女性に多いように感じます。

 この“口コミをする人”は、自分が良いと感じた商品やサービス、あるいは、美味しいと感じた食品や飲食店に出会うと、その情報を友人に伝えたくなる衝動に駆られるようです。ただし、友人ならば誰にでも伝えるのかというと、そうではなく、内容によって伝える人を選択しています。

たとえば、食べ物の話は、食べることが好きな友人に限定する、パワースポットなどスピリチュアルな話は、そのようなことが好きな人に限定するなどです。よく、考えてみると、皆さんも無意識の内に、話す内容に応じて、話す対象を選別しているのではないでしょうか。

では、何故、テーマによって口コミをする相手を選ぶのでしょうか。それは、恐らく話しをして興味を持たれなかった場合には、「人がせっかく親切で教えてあげたのに。つまらない。」という感情が芽生えた経験をしたからだと思います。一方、興味を示した場合には、新しい情報に喜び、「そんなに、美味しいの。今後買ってみる」という喜びの反応があったという経験をしているからだと思われます。そして、その友人が実際に食べて、「美味しかった」と言ってもらった時には自分も“うれしい”という感情が芽生えた。そんな経験をしているからと思われます。

 後者の「友人を喜ばすことにつながった」時の“うれしさ”が、口コミをしたくなる動機となっているのではないでしょうか。

もう少し整理すると、新しい情報を保有していたことに対する“ちょっとした優越感”、小さな幸せを提供できたことに対する“幸せ貢献感”、同じように美味しいと感じてくれたことで得られる“共感”という、3つの“心地よい感情”が芽生えることが、口コミをしたくなる動機になっているように感じます。

 商品やサービスを提供する側の企業としても、自社のものが、自然の口コミが行なわれていることが実感できれば、モチベーションのひとつにつながるのではないでしょうか。

第30回(2010.09.21)  “反小沢”と“親小沢”という構図

民主党の党首選も終わり、新しい体制での日本の政治がスタートしました。

民主党になってから様々のことがありましたが、マスコミ各社からは、“反小沢”、“脱小沢”、“親小沢”など、小沢議員を中心とした勢力争いに関すものが非常に多く露出されたように感じます。

特に、菅内閣が発足した最近は、これらの言葉が頻繁に登場しています。

今回は、この“反小沢”と“親小沢”という構図について、Deep Thinkingしてみたいと思います。

テレビのニュース番組やワイドショーでは、民主党の幹部級の議員を招き、閣僚人事について盛んに「脱小沢という意志を表した人事と捉えていいのでしょうか」と質問しています。

 質問された議員は、「我々は、そんなことを考える余裕はなく、全力で菅総理を支えるだけです」と繰り返し答えています。そのように答えているのにも関わらず「でも、ホンネでは、脱小沢を意図しているのでしょう」と、こちらも繰り返し質問しています。

 このやり取りを見て感じることは、もしかすると報道する側に「2つの相対するグループが存在し、その勢力争いが起きている」ということを印象づけようとしているのではないかということです。

 仮に、そうだとすると、何故、報道各社はそのように印象づけようとするのでしょうか。それは恐らく、勢力が拮抗する2つのグループの権力争いという状態を、人は本質的に好きなためです。

源平の戦い、川中島の戦いなどはどちらも、拮抗する2つの勢力の争いであり、今も語り継がれている日本人が好きな歴史的事実です。

また、拮抗するグループが、「成り上がりとエリート」、「善人と悪人」、「腕力自慢と頭脳自慢」など、著しく異なる性質が対立するような場合、自分の好みも入り込むため、益々面白いと感じる話になってきます。もし、今回の報道が、この「欲求の本質」を利用して興味を惹くために行なわれていたとすると、必ずしも客観的な情報ではないということになってしまいます。

本件については、真実かどうかは分かりませんが、一見客観的に見える情報も、必ずしも客観的な情報ではない可能性もあるということを認識して考察することが必要かもしれません。

新規事業開発においても、情報を収集し考察することはよくあります。その際には、本当に客観的な情報なのかどうかを一度Deep Thinkingし、その上で活用することが大切なのではないでしょうか。通説は、必ずしも正しいとは限らないのです。

第29回(2009.09.29) “国民”という耳心地のいい言葉

 実質的に初めてとなる政権交代が起きましたが、それまでの約1年間は、政局が大きく揺れ動いていました。揺れ動くその過程では、“国民”という言葉を非常に多くの回数耳にしました。ということで、今回は、この“国民”という言葉をDeep Thinkingしてみたいと思います。

 「国民の皆様のために」と言われれば、本当に実現できるかと疑いつつも、どの人も「それは、有難い」と思うものです。何故なら、「国民のため」という言葉が使われた場合、ほとんどの人達は、「自分のため」と考えるためです。
 しかし、一口に国民と言っても、「都市部に住む人、地方に住む人」、「民間企業に勤める人、公益法人に勤める人、公務員の人」、「子供、高齢者」、「ダムの建設予定地から渋々転居した人、ダムと無縁な人」、「公共事業が収益の中心の会社に勤める人、民間需要が収益の中心の会社に勤める人」、「経営者、従業員」など、様々なセグメントが可能ですが、これらすべてが国民です。ところが、このように“国民”をセグメントしてみると、利害が反するセグメントが当然存在することになります。


 このようなことは、考えれば誰にも分かることですが、「国民のために」と抽象的に言われると、「自分の都合の良いことをしてくれる」と思ってしまう習性があるようです。
 そもそも、“国民”とは“日本国民”を指しており、全体集合を“世界の人”と捉えれば、国民の補集合は“日本国籍を持たない人”になるので、国民のためではない政治は、日本国民以外の外国人のための政治になってしまいます。
 では、何故、「国民のために」という言葉を聞くと、「自分に都合のよいこと」と考えてしまうのでしょうか。色々な要因はあると思いますが、ひとつには、気持ちを安定させるという無意識の心理が働くためと思われます。


 日頃、不安や不満を感じている人は多いと思いますが、それを和らげるような考え方をする本能に近い傾向があるようです。この心理を悪用されると、「このままでは、2年以内に癌で死ぬ」と言われ、その不安を和らげるために大金を払って怪しい団体に入会してしまうのです。これは、悪用した例ですが、当然、健全なビジネスにも利用できるものです。

「朝バナナ」など、様々なダイエット法が現れていますが、これも、取りあえず信じて実行することで気持ちが安定化する、という欲求が背景にあるように思います。

「気持ちを安定に保ちたい」ということは、無意識の欲求であり、これを解決する手段を付加することができれば、新たな付加価値として認識されると思われます。

新しい商品やサービスを企画する際に利用できる心理として、考慮に入れてもいいかもしれません。

第28回(2009.07.01) ラブホテルに集まる男集団

 今回は、「ラブホテルの集まる男集団」という珍現象について考えてみたいと思います。
ついつい、怪しげで、一歩間違えれば犯罪ネタではないか、と想像してしまいがちですが、決して不健全な話ではありません。その背景には、欲求を満たそうとする行動があります。

さて、では、どのようなホテルにどんな男達が集まってくるのでしょうか。

まず、どのようなホテルかということですが、プール付きの部屋があるホテルに集まって来るのです。すなわち、プール付きの部屋を目指して集まってくるということです。次にどんな男達が集まって来るかということですが、それは、ラジコン潜水艦のマニアが集っているのです。

ラジコン潜水艦を動かすには、当然、水が必要となりますが、単に水があるだけはダメで、潜行や浮上といった独特のアクションを楽しみたいという欲求があります。そのためには、その様子が横から見えることが必要であり、ラブホテルのプールは側面がアクリルでできているため、この願いを叶えてくれるのです。ラブホテル側は、本来違った狙いからアクリルを使ったのでしょうが(どんな狙い?)、何とそれが、ラジコン潜水艦マニアの目的にも合致していたのです。潜行、浮上の様子を写真やムービーで撮影することができる極めて限られた場所ということで、この部屋に男達が予約をして10人程度で泊まり込むのです。

「ビジネスレイヤー別新規事業開発実践ガイド」にも書きましたが、人は欲求を満たすための最適な手段を選ぶという単純な法則があります。たとえ、本来の目的が違っていたとしても最も適したものを探求していくのです。
マンガ喫茶やインターネットカフェも、本来の目的とは異なる目的で利用し始めたことにより、内容が大きく進化してきています。元々は調味料の乾燥容器としてつくったものが、多くはカメラレンズの乾燥用に使われたと聞きます。

人は、本来の目的は違っていても、自身の欲求を満たす最適な道具(商品)やサービスを探して利用していくものです。このような現象の発見から、新商品や新規事業は生まれるかもしれません。


欲求の本質からそれを満たす最適な道具を考えてみる、単純ですが、有効な方法なのではないでしょうか。

第27回(2009.04.10) 「言い訳の理論武装」

TVで政治家の方の発言を聞いていると、政策に対して何らかの成果が出た時には、ことさら大げさに宣伝しますが、年金問題や失言などの失策に対しては、誰が聞いても「嘘だろ!」と思う言い訳をしています。一応、「言い訳の理論武装」をして釈明をしているということです。

そこには、“失敗を認めてはいけない”という強い心理が働いているように感じます。

さて、話を新規事業に移してみます。

新規事業開発についても、「成功した事業には、“あれは、俺が手掛けた”という人がたくさんいるが、失敗した事業には、“あれは、俺が手掛けた”という人はいない」という話をよく耳にします。

実際には、失敗事業に携わった人はいる訳ですので、その方々に過去の話しを聞くことはあるのですが、その時には、「自分も携わっていたが、失敗の主たる原因は○○という点にあった」という“言い訳の理論武装”がきちんとできています。

現役を引退すると、失敗経験が勲章になるらしく、自慢気に話す人は多いのですが、現役の場合は中々失敗を認めにくいものです。これは当然の心理です。しかし、新規事業の場合は、この「言い訳ができる」という“のりしろ”を残しておくことは大変重要と感じます。

最近、スポーツ選手などは、「結果がすべてですから」という発言をよくします。企業においても、成果主義という評価制度が増えてきており、これも、「目標に対する成果という結果がすべて」という形での運用も可能な制度と言えます。もちろん、そこまで極端な運用をしている企業は少ないと思いますが、しかし、「チャレンジ精神を低下させている要因のひとつに成果主義がある」という意見はよく耳にします。

研究開発や新規事業開発という業務において、「結果がすべて」という運用をされてしまうと、担当者はやや苦しい精神状態になってしまうと思われます。しかし、結果はまったく問わないということでは、これまた、気持ちが緩んでしまうということになり、非常に難しいモチベーションマネジメントが必要となります。

そこで、ひとつの解になるのではないかと思うことが、「言い訳の理論武装」です。これをいい意味での使い方ができるような環境をつくっていくことは、挑戦的業務を促していくことにつながるのではないかと考えます。挑戦的テーマと人の心理はかなり深い関係があると思われます。

このようなことも、弊社研究会の重要な検討テーマにしたいと思います。

第26回(2009.03.30) 「新規事業開発の矛盾の背景」

「新規事業開発は、難しい」と感じている方は、残念ながら多いのではないでしょうか。

ニーズを発掘することが難しい、競争に打ち勝つ技術と事業モデルをつくることが難しい、事業化プロデューサー人材がいないなど、様々な壁にぶつかり悩んでいるものと思われます。

上記した事柄は、企画の進め方や人材の側面での難しさの要素ですが、今回は、意志決定を行なうトップの方々の欲求という側面から新規事業開発の難しさを Deep Thinking したいと思います。

「新規事業開発の成功確率は、1000に3つ」などと言われていますが、これは、研究開発に着手したテーマすべてを分母しているため、かなり低い数字となっています。また、最近の調査データというものがないため、正確な確率は分かりません。しかし、実際に商品化、事業化したテーマの数を分母として成功確率を調査したとしても、恐らく50%を越えることはないと思われます。すなわち、残念ながら失敗する確率の方が高いということです。

失敗する確率が高いことを、好き好んで行なう人は、普通に考えれば少ないと言えるでしょう。

ここで、話をちょっと変えてみます。

パチンコ、パチスロの参加人口は、最近減っています。理由は、ギャンブル性が低下したことにあります。すなわち、規制の強化により。勝った時の見返りが少なくなってしまったのです。

一般の人では、パチンコ、パチスロで勝つ確率は、恐らく50%以下だと思います。しかし、負ける確率が高くても、勝った時の見返りが大きいと、挑戦したくなるのが欲求というものです。別の言い方をすると、見返りが小さいと挑戦する気持ちが芽生えないということです。

ここで、話を新規事業に戻します。

新規事業も、成功した時の見返りが大きいと挑戦したいという気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。しかし、現実には、新規事業テーマは小粒になっており、そのため、トップの決断も勢いがつかず、何となく宙に浮いてしまうという現象が起きてしまっているものと思われます。

新規事業の意思決定は、トップマターです。しかし、見返りが小さいとトップが興味を持てなくなり、トップの心の中では、自分の問題ではなくなってしまうようです。すなわち、トップが判断すべき問題にも関わらず、トップが判断する意欲をなくしているという、「イノベーションの矛盾」が起きてしまっているということです。

新規事業は、このように人の欲求と心理が関係しており、このように欲求や心理という側面から見ると、「イノベーションの矛盾」が結構存在しています。

4月度より、弊社主催の研究会がスタートしますが、このようなイノベーションの矛盾を考慮しつつ、新規事業開発の新しいスキームについての議論を参加企業の方々と行ないたいと思います。

第25回(2008.10.20) “おバカキャラ“って何?

 某局のクイズ番組をきっかけに登場した“おバカキャラ”なる人達が大変な人気となっています。男女共におり、この人気は、意外と継続しています。

 さて、この“おバカキャラ”とは、一体何でしょうか。今回は、このことについてDeep Thinkingしたいと思います。

 まず、“おバカキャラ”の特徴について整理してみます。

 “おバカキャラ”の人達は、クイズに対する正解率が低く、また珍回答をして出演者に小バカにされ、笑いを取ることに特徴があります。

 あるいは、芸能レポーターが取り囲むインタビュー取材においては、レポーターと、次のようなやり取りが行なわれます。

芸能レポーター
「福田首相が辞任されると発表しましたが、知っていますか。」

 “おバカキャラ”

「ええ!そうなんですか。知りませんでした。」

芸能レポーター
「ところで、福田首相のフルネームを知っていますか。」

 “おバカキャラ”

  「えーと、フクダタケオ?」

このような受け答えをして、質問したレポーターに満足を与え、視聴者の期待にもしっかり応える所に特徴があります。
 ところで、このようなキャラクタは、どうして、面白いのでしょう。それは、恐らく、ボケに対する面白さと思われます。
 漫才やコントでは、必ずボケとツッコミに役割が分かれています(中には、タブルボケというコンビも稀にあるようですが)。しかし、このボケとツッコミは、コンビの中での立場です。

ところが、おバカキャラの人達は、皆がボケです。すなわち、おバカキャラは、周りいる人達をすべてツッコミの役割にしてしまう“ボケ役”ということになります。

どうも、“おバカキャラ”の人達は、出演者と視聴者をツッコミとするボケというポジショニングを取っているということであり、もしかすると、これまでにない大胆なポジショニングをしているのかもしれません。

 また、コンビにおけるボケとツッコミは、「芸」の領域であるのに対し、“おバカキャラ”は、天然の領域と思われます(もちろん、演じている部分もあると思いますが)。天然ボケというのは実に面白く、人は、天然ボケがかなり好きなようです。飲み会を開いていても、どこかに出かけても、天然ボケの人が一緒だと、実に場は和みます。

なお、天然ボケは、狙ってつくれないところに価値があります。これは、圧倒的な差別性です

人は天然ボケが好きであり、希少性があり、さらに差別性があって、そして大胆なポジショニング、これが、“おバカキャラ”の人気が継続している理由ではないでしょうか。

こんなポジションの商品を継続的につくっていきたいものです。

第24回(2008.05.12)  “隠れ家レストラン”があるのに、“隠れ家コンビニ”は何故ないのか

「隠れ家レストラン」や「隠れ家バー」などの言葉は、情報雑誌やファッション雑誌ではよく見られます。繁華街ではない、ひっそりとした住宅街や路地裏などの目立たない場所にあり、“知る人ぞ知る”というような店舗のことです。

「隠れ家レストラン」と言われる店舗は、何となく魅力的に感じる店舗であり、お馴染みなったことを自慢できそうな感じがして、「一度行ってみたい」と思いたくなります。

しかし、ちょっと視点を変えてみると、「隠れ家レストラン」はあっても、「隠れ家コンビニ」はありません。「隠れ家銀行」と言われるような立地にあって、融資が増えた銀行があるという話も聞いたことがありません。

何故、レストランやバーなどの飲食店は、“隠れ家”があるのに、小売店やサービス店は、“隠れ家”がないのでしょうか。今回は、このことについて、Deep Thinkingしてみたいと思います。

一般に、店舗は、立地条件の良い場所に出店することが、繁盛するための最大のポイントと言われています。すなわち、「ほとんど立地で決まる」ということです。ところが、飲食店の場合は、この法則が当てはまらないこともあります。というのは、飲食店に限っては、場所が悪くても、おいしいものであれば、わざわざ遠くまで食べに行きたいという動機をいただかせるパワーがあるようです。

たい焼き屋にも“東京御三家”があるようですが、四谷にそのひとつのたい焼き屋があります。平日の昼間に行っても、たい焼きが焼けるのを多くの人が並んで待っています。ひとつだけ買う人もいれば、30個買う人もいます。30個も買うということは、たまたま見つけたたい焼き屋ではなく、たい焼きが目的で、この店に来たのです。

10月になると、上海蟹を食べるためだけに上海へ行く、という人もいるようです。どうも人は、おいしいものを食べるだけで幸せを感じ、おいしいものを食べたいという欲求は、様々な欲求の中でも、かなり強いことが想像できます。

不便な場所にあるコンビニに、敢えて行くことは基本的にないようです。不便な場所にある銀行も同様です。しかし、このような不便な店舗でも、オリジナルのおいしい食べ物をサービスで提供する、あるいは、オリジナルのおいしい食べ物を販売するなどのサービスを付加すると、とたんに、「わざわざ行く店舗」に様変わりするかもしれません。

それほど、“おいしい”を味わいたい欲求は強いということです。

第23回(2008.04.16) 「男の単純さ その2」

前回は、理容院やコンビニを例に採り、男の単純さについて書きました。今回は、企業の中にある男の単純さについて話をしてみます。

どこの企業も新人が入ってくると、多少なりとも、話題がその新人に及ぶものです。特に、かわいい女性が入って来ると、男性達は、少なからず気にするものです、これは、本能とも言うべきもので仕方のないことです。

さて、こんな話があります。

新人のかわいい女性が、工場に入って来ました。工場内は、にわかに活気づいてきたのですが、そのことを立証するかのようなことが起きました。それは、工場の歩留まり率が向上したのです。

良い職場であることを示したいと思ったのか、かっこいい所を見せたいと思ったのか、深層心理は量りかねますが、いずれにしても、工場内が活気づき、その結果として工場の歩留まり率が向上するという現象が起きたのです。

その後、その女性は、知財部門へと異動になりました。ところが、今度は、特許の出願件数が多くなるという現象が起きたのです。

 何故、特許の出願件数が増えたのでしょうか。恐らく、それは、次のような理由と思われます。

 かわいい女性が知財部門に入ったため、まずは、「何とかして、その女性と話がしたい、コミュニケーションが取りたい」という欲求が芽生えます。そして、次に、「では、どうしたらいいのか」と手段を考え始めることになります。

何の用事もないのに、社内で話しかけることには、さすがに抵抗があります。そのため、「業務に関連することで話をするのなら、周りに対しても、また、自分に対しても言い訳が立ちやすい」と考え、出てきた答えが、「特許を出願する」ということです。すなわち、特許を出願するための相談や手続きのために、知財部門を訪れ、コミュニケーションを取ろうと考えた訳です。そうなれば、当然、特許の出願件数が増えていくことになります。

私も以前、別の会社にいた頃、アルバイトの女性と話しをするために、一生懸命、アルバイトの女性にお願いする仕事を考え、つくり出していました。考え出すことに時間を費やしていました。本末転倒もはなはだしいのですが、しかし、活性化していたことは事実です。

確かに、その時間は、論理的に考えれば無駄です。しかし、感情の動物である人間がやることでは、決して無駄にならないことも実は多いのではないでしょうか。

かなり有名な話ですが、社内恋愛を奨励して、業績を大きく高めた食品メーカーがあります。好きな人が会社にいれば、いいところを見せようとして、特に男は、単純に一生懸命になるのです。

もしかすると、金銭的な飛びぬけた報酬より、いいところを見せたいという欲求の方が、人間のとっては、より原点的なモチベーションなのかもしれません。飛びぬけた報酬も、モチベーションを高めるひとつの手段ですが、報酬をもらった後は低下してしまう、一度だけのモチベーションかもしれません。もちろん、国による違いはあるかもしれませんが。

第22回(2008.03.10) 「男の単純さ」

埼玉にある、某理容院の話。

そこのお店は、かなり繁盛しているそうです。特に土日は親子連れで一杯になります。ところが、親子の組み合わせのほとんどが、父親と息子だそうです。

そこのお店には女性従業員が何人かいるのですが、全員がミニスカートです。どうも父子連れが多い理由は、ここにありそうです。

2階にもお店があり、1階が満杯になると開けるそうです。従業員が2階に上がる時には、雑誌に向けられていた目が、一斉に階段の方に向けられるということなので、先の仮説は間違いなさそうです。極めて単純です。

話をコンビニエンスストア(以下、コンビニ)に移します。

コンビニも、かわいいアルバイトの女の子が入るだけで売上が急速に上がるそうです。かわいい女の子がいると、他の競合店を通り越して、わざわざ遠い店に来る男達が増えるということです。これまた、極めて単純です。

コンビニには、意外にも従業員に道を尋ねる人が多いそうです。「一番近い郵便局はどこですか。」、「●●工業所の場所は分かりますか。」というような具合です。

道を尋ねる人が多いと聞くと、“コンビニの端末で地図情報が取れるような提案をしてはどうか”と、つい考えたくなります。ところが、道を聞く目的が、実は女の子と会話したいことにあるかもしれません。もし、そうであるならば、地図情報は、目的の妨げになるモノになってしまいます。

地図情報よりも、“その子が昨日、髪を切った”、“昨日、電車でお年寄りに席を譲る姿を見た”などの情報(もちろん、個人情報に触れない情報)の方が、顧客にとっては、よほどうれしい情報になります。

欲求の本質を見誤ってはいけない、ということです。