第53回 欲求の本質に迫る 「無人の中古書店の仕入れがなるほど」

今回は、無人の中古書店について書いてみます。


無人の中古書店を立ち上げる前に、このアイデアを多くの人に相談したようですが、全員に「盗まれるから無人の中古書店など成り立つわけない」と言われたようです。しかし、現実は、そのようなこともなく、商売として成り立っています。
ちょっと田舎に行くと、野菜を売っている小さな無人店舗がありますが、多くの店舗が頻繁に盗難に遭うこともなく販売が継続しているようです。
これらの店舗が成り立っている背景には、“善意”があると言われています。
無人の中古書店については、盗難に遭わないようないくつかの工夫があります。
そのひとつは、店舗の場所です。店舗は、常連客がほとんどの商店街の中にあり、そのため、さりげない監視の目があるようです。また、料金は直接、本に対して払うのではなく、本を入れる袋の代金を自販機で購入します。その袋に本を入れて店舗を出るため、料金を払っていますという無言のメッセージを発信できるようです。
このような工夫により、小さいのの無人店舗は成り立っています。
これらの工夫も興味深いのですが、私が注目したのは「中古本の仕入れ」です。

初期の頃は、オーナー自身が購入し読み終わった本を店舗に並べていました。その後はどうしたかというと、店舗を訪れた人が置いていく本を店内に並べているようです。
すなわち、まったく手間をかけずに無料で仕入れて、それを売っているということです。店内には、本を置く“かご”があるだけです。
さて、ここで興味を持ったことは、「何故、無料で本を置いていく人がいるのか」ということです。


「通常の中古書店で買い取ってもらえるが、そこに行くことも煩わしい」、「捨てるより有効利用になるかも」などの理由が考えられますが、「感動を共有したい」、「感動を味わって欲しい」という理由を持つ人がいるのではないでしょうか。そして、後日、店に訪れた時にその本が売れていたら、小さな感動共有の満足感が得られるのかもしれません。
日常を振り返ると、「この本、面白いから是非読んで」と本を手渡されることがあります。読まないで返すことは申し訳ないと思いつつも、時間が過ぎてしまいます。その内、借りたことを忘れてしまい、気づいた時には2年くらい過ぎており、こうなると相手が忘れていることを願うようになります。


返すに返せない、しかし、捨てることはできない、結果読まない状態が続くことになります。本も読んでくれる人の所へ行く方が、嬉しいかもしれません。