第48回(2018.01.21)  「鳥貴族でバイトしたらバイオリンが上達した」

 最近、テレビを見る時間が減っているのですが、たまたま見たある実話を紹介したある深夜の番組を基に、欲求の本質に迫ってみたいと思います。

 幼い頃よりバイオリン習っていたセレブな家庭で育ったお嬢様がいました。セレブな家庭なので、海外の貴族の方々とのお付き合いもあり、貴族の方々のパーティでは得意なバイオリンを披露することも普通にあったようです。

 コンサートでも演奏し、不定期ですが演奏による収入もあったということです。

 このように何不自由なく優雅に生活をしていたのですが、ある時ご両親が病気になり、そのことをきっかけに「自活できるようにならなければならない」という意識に芽生え、そして、それまで給料をもらう生活を経験したことがなかったお嬢様がバイト探しを始めました。

バイトを探した時に、貴族の方々とお付き合いの多かったお嬢様は、「鳥貴族」という名前を目にし「ここは、きっと貴族の方々へサービスを提供するお店だろう」と勝手に想像し、鳥貴族の某店舗に面接を受けに行きました。

もちろん、鳥貴族は、おつまみが一皿280円という庶民的な居酒屋であり、貴族とは何の縁もありません(ちなみに、社長がジャニーズ事務所所属のアイドルの父親であることでも有名ですが)。

 勘違いで面接を受けてしまったお嬢様ですが、世間ずれがなく、またまじめな性格なため、そのままバイトをすることになりました。何の仕事をしたかというと鶏の肉を骨からはぎ取り、指先で肉をもみながら味付けを行なう、あるいはつくねをつくるという仕込みの作業です。肉の味付け作業は、相当の指に力が必要となる作業のようです。

このバイトは、ご両親に内緒で行なっていたのですが、ある日、血だらけのエプロンを見つけられてしまいました。このこともきっかけとなり、鳥貴族のバイトを9カ月で辞めることになりました。

ところが、鳥貴族を辞めて改めてバイオリンを弾いたところ、お母さんがバイオリンの音色の変化に気づき、「あなたバイオリン上手くなったわねえ」と言ったそうです。

実際に音色が良くなったのですが、その要因はどこにあったのでしょうか。

そうです、鳥貴族のバイトで行なった鶏肉の仕込み作業によって、指先の筋肉が鍛えられためです。

それまでは、全身の力を使うように押さえていた玄を、指の力が強くなったため余裕を持って押さえられるようになり、そのことで音色が良くなったということです。

私は、この話が面白くて仕方ありませんでした。

そのひとつの理由は、“合理的思考とは異なる世界の話だから”だと思います。

合理的思考で考えると「洋式トイレのフタは不要」ということになります。しかし、無いと美しくないと感じる人がいます。

 人は、合理的ではないモノやコトを求める欲求を持っているのではないかと思います。そして、合理的ではないモノやコトを求める欲求に応えていくことを意識することが、企業には益々必要になっていくものと感じます。そのためには、“合理的思考力”だけではなく、“感じる力”が改めて重要になるのではないでしょうか。