第44回(2015.07.01)  「流しのイケ面珈琲店の小さな成長物語」

 山陰地方のある珈琲店の話です。本日は、この珈琲店の小さな成長物語についてお話をしていきます。

 ある若者が、流しの珈琲店を始めました。これは、夜の歓楽街の飲み屋を一軒一軒訪問し、飲食の最後の締めに、淹れたてのおいしい珈琲を売るという商売です。いわゆる無店舗珈琲ショップです。

 北島三郎さんが、流しの歌手であったことは有名な話ですが、流しの珈琲店は、おそらく、これまでにない業態と思います。

 私はセミナー等で、「新しいビジネスモデルは、既存の要素の新しい組合せである」ということをよく言っていますが、この珈琲店も既存の要素の新しい組合せと言えます。

 珈琲店という業態は以前からあります。珈琲の出前もあります。一方、流しの歌手や流しのタバコの販売なども以前からあります。しかし、“流し”の“珈琲店”という組合せは存在しませんでした。そして、この組合せが新しい価値をもたらす業態になったと捉えることができます。

さて、この珈琲店ですが、豆や挽き方、水のこだわり等があったこともあり、“おいしい”ということで評判になり、やがて店舗を持つようになりました。

本質的欲求を満足する商品と売り方を提供していたために、小さな成功を収めたものと思われます。

 店舗を持ってしまう普通の業態になってしまいますが、豆はもちろんのこと、豆の挽き方、フィルター、淹れ方(サイフォンかドリップか)などの各々の要素においてバリエーションを持ち、それらを顧客に選択してもらうという売り方をすることで、こだわりをアピールし、珈琲通の人達を中心的な安定顧客として獲得していきました。また、マスターがイケ面であるという付加価値もあり(この付加価値が大きいのかもしれませんが)、カウンター席は、常連の女子達がシェアすることも多くなっているようです。

このように珈琲店としては尖がった存在となっていったのです。

しかし、珈琲にこだわるため、珈琲しか頭になく、珈琲しか販売していませんでした。ところが、そこにスコーンしか頭になく、スコーンしか製造販売していなかった尖がったスコーン店から、「ウチのスコーンをメニュー加えて、珈琲とセットで販売してもらえないか」という提案があったのです。その提案を喜んで受け入れました。

 珈琲店としては付加価値メニューが増え、尖ったスコーン好きの顧客も来店するようになり、小さな発展へとつながって行ったのです。このストーリーは現在も進行しています。

 “尖がった珈琲”と“尖がったスコーン”がフュージョンすることで、小さなイノベーションが起きたのでした。