第10回(2007.07.03) 「大学の行方をイマジネートする」

 教育再生会議、ゆとり教育の見直し、国立大学の独立法人化など、何かと話題の多い教育問題ですが、今回は、この教育産業ついて考えてみたいと思います。

教育産業は、少子化というトレンドの下、大きく変化してきています。大学や高校では、学生数を確保するため、一般受験からの入学者数を減らし、AO入試や推薦入学など、一般受験をしないで入れる枠を広げています。この変化に連れ、予備校も一般受験のカリキュラムに加え、推薦入学用のカリキュラムを増やしてきています。

 また、以前であれば、浪人生というと大学受験に成功しなかった子供が仕方なくなる身分であり、どちらかと言えば、肩身の狭い存在であったと思います。ところが、最近では、安易に大学を選ばず、目標をしっかり持った意思の強い子供であるという評価になっています。

このように、教育機関の戦術や学生に対する評価が少しずつ変化してきています。

さて、では、このような背景の下、今後の大学の行方をイマジネートしてみたいと思います。

子供の数が減少する中、また学費が高止まりする中、大学運営においては、生徒数の定員を確保する、あるいは増やすということが直接的な課題となります。

では、生徒数を確保、あるいは増やすにはどのような方法があるでしょうか。一般的には、次のようなことが行なわれています。

・受験に工夫する(推薦入学者数を増やす、私立でもセンター試験入学を行なう、2度受けられるチャンスを与える、など)
・スポーツ等で知名度を高める
・就職率、有名企業の就職先の枠を増やすなど、就職に関する工夫
・学校を都心に移す

 生徒にとっては、いずれも大変有り難い施策です。しかし、これらは、いずれも入学者数に焦点を当てたものです。実は、生徒数を増やすには、もうひとつ方向があります。それは、入学した生徒を簡単に卒業させないという方向です。

 日本の大学は、「入る時が難しいが、出るのは易しい」と言われてきましたが、最近では、入る時も、出るのも易しくなりつつあります。簡単に卒業させないということは、在学中での試験を厳しくし、しっかり勉強しないと単位が取れないという方向に変えていくことになります。このようにすれば、恐らく留年する生徒が増え、生徒数は増えることになるでしょう。

 一方、新卒を採用する企業側から見ると、しっかり勉強した卒業生が増えるため、好ましい方向となります。そして、当然、生徒の親にとっても、企業側にとって魅力ある人材に育つことは好ましいことになります。

 実は、このような状態になることは、社会的にも好ましい方向となります。大学の行方は、生徒数を増やしたいという欲求の下、このような方向に変化してくることも想像できます。

 よく考えると、大学の本来の目的(私共の言い方では“上位の目的”)は、しっかりした教養と専門知識を身につけた学生を世に送り出すことにあります。簡単に卒業させないという方向は、本来の目的にも沿っているものであり、好ましい変化方向と言うことができます。 もしかすると、数年後には、留年している生徒の評価も変わっているかもしれません。