【日経産業新聞 2003.11.11】
社員の起業はのれん分けで
大企業の非中核技術を分離する「半独立型ベンチャー」ともいえる起業手法を富士通が活用している。確かな技術を元社員が事業化し、親元も適度な出資などで支援するいわば「のれん分け」のような仕組みで、従来のベンチャーに比べて安定と成長を両立しやすいとされる。リストラで経営資源を思うように活用できない起業の「宝の持ち腐れ」を防ぐことができるとして経済産業省もこの手法の普及を後押しする。
「君は自分が育てた技術を外部で事業家したいんじゃないのか」
2000年末、富士通のソフトウェア事業本部で高速検索技術の開発を担当していた進藤達也氏は、社内ベンチャー制度の計画書審査で担当の経営企画室長にアドバイスされた。「今年できた新独立制度はどうだ。これなら技術を持ち出せるぞ」
(中略)
同制度を使って進藤氏は2001年7月、企業向け高速検索ソフトの開発会社アクセラテクノロジ(東京・渋谷)を創業した。現在の資本金1億4千万円のうち富士通の出資比率は34%、創業者が約30%、住友商事、ベンチャー育成会社のサンブリッジ(東京・渋谷)、ベンチャーキャピタルなど第三者が35%強と三分されている。
進藤氏は「創業者、富士通、第三者とのバランスのとれた関係が当社の独立心、親元との友好関係、第三者への責任感を支えている」と話す。創業時にはソフト開発メンバーが富士通から出向で参加。
富士通の財産である検索ソフト技術はきちんと契約を結び、長期間、優先的にライセンス供与を受ける。販売、資金調達でも富士通がバックアップした。
一方で子会社ではないため日立製作所、NEC,日本IBMの系列会社とも販社契約できた。業績は順調。初年度にはやくも黒字を達成、2006年の株式上場が見えている。
富士通はこの独立制度を使って、すでにアクセラを含め5社を分離した。中村裕一郎経営戦略室部長は、「各社が手がける事業は我々が抱え込んでいたら日の目を見なかったものばかり。上場まで行けば売却益を得られるし、社内でくすぶっている技術者らの士気向上にもなる」と評価する。
スピンオフ型のVB推進すべき
〜ベンチャー育成に詳しい村井勝リーディング・イベーション取締役
(コンパック日本法人元会長)の話〜
日本でベンチャーが育たない理由はいろいろあるが、大企業が優秀な技術や人材をなかなか手放さないこともそのひとつだろう。
特にその優秀な人が手がける技術や研究が、大企業内で非中核技術になった時が問題。企業側にこうした人材・技術を分離・独立させて救う制度がないと、その人は腐るか、自力で起業しようとする。だが、完全独立だと会社の資産、支援を得られず力不足になりがち。かといって単なる子会社ではベンチャーならではの活力が出てこない。
だから大企業発・半独立型のスピンオフベンチャーを推進するべきだ。今、大企業は事業の選択と集中の真っ最中。絶好のチャンスだ。
「歓迎」企業は少数派 〜経産省が啓蒙活動〜
富士通のように社員の起業を制度面で支える大企業はまだ極めて少ない。社員が自分の意志だけで飛び出した場合、会社は当然、社内の技術を持ち出すことを許さず、アイデアや人脈を使われることすら迷惑がる傾向にある。
結局、こうした完全独立ベンチャーは資金調達や販路開拓で親元の支援を得られず、良い技術をもっていても危機に陥りやすい。
経済産業省は最近、大企業発の半独立ベンチャーを日本ならではの「スピンオフベンチャー」と定義している。
スピンオフはもともと大企業が非中核事業の再編のため部門を切り離すことを指す。米国ではヒューレット・パッカードからアップルコンピュータが生まれるなど新産業を生み出すダイナミズムとして機能してきた。
だが、日本の大企業から有力なベンチャーが育つのはまれだ。同省は「スピンオフベンチャーは大企業支配下のベンチャーとも孤立無援の完全独立ベンチャーとも違う。これからの研究開発型ベンチャーの主力」(技術振興課)と期待をかけ、研究助成金を重点配分し始めた。今月20日には経団連会館で初の「スピンオフ・ベンチャー推進フォーラム」を開催、大企業の啓蒙を始める。
「大企業にベンチャーの量産を促し、両方が利益を得る仕組みを作りたい」。スピンオフベンチャー育成に取り組むコンサルティング会社、リーディング・イノベーション(東京・千代田)の丸山信人取締役は語る。同社も米国のベンチャー育成会社、ビジネスカフェ日本法人からスピンオフで今年、誕生した。
(中略)
日本には70年代、80年代、そして90年代と過去3回のベンチャーブームがあったとされる。だが本格的に経済活性化につながったケースはない。これまでベンチャー育成に冷淡と言われた大企業が、本当にインキュベーターの役割を果たせるのか問われる。
(日本経済新聞・渋谷高弘)